地方都市の足LRTを整備しよう

電車(LRT)は持続都市の条件である

高度成長時代以来日本での迷信みたいになっていた、効率的な経済成長のため都会に人口を集中させるという時代は終わり、コロナ後の日本では、持続的な繁栄を保証するために、地方分散型の社会を築く流れが本格化するでしょう。
そのために各地方は、それぞれの特性に合わせて、地域の魅力を引き出す努力をしなくてはなりません。地域に職を作り出し、地域の生活を快適なものにする。東京の便利さに慣れた人も、あぁここのほうが住みやすいと多くの人が思えるよう持って行くのです。
東京の便利さの一つに、公共交通機関があります。東京では自動車無しの生活には、全く不自由さがありません。この点ニューヨークと同じことです。35年前首都ワシントンにいたとき、自動車無しの生活でしたが、アメリカ人から「わぁ、アンタニューヨーカーみたいにスマートやな。」と言われたものです。もちろんアメリカでは自動車無しの生活は考えられません。
一方ヨーロッパでは、結構自動車無しの生活は出来ると思います。事実ヨーロッパのかなり多くの町で、少なくとも2~3ヶ月生活をした経験がありますが、いずれも自動車無しで不自由を感じるところはありませんでした。人口10万人程度の大学町では(ヨーロッパにはこのような町は多い)、もちろん町中に住めばほとんど徒歩圏内でどこにでも行けますから、自動車は不必要です。一方人口20万以上の都市になれば、多くの都市がLRTを完備しており、これがたいそう便利になっているのです。ヨーロッパではLRTがある町が、あちこちにあり、市民の足となっているのです。
日本では多くの町が東京一極集中のあおりを受けて衰退し、中央街は閉じた商店が目立つシャッター街になっていますが、ヨーロッパの中小の町では、中央が常時歩行者天国になって賑わっています。何が違うのでしょうか? その鍵を握るのがLRT(Light Rail Transit)です。

歩行者天国-入れる車両は、電車・自転車・ベビーカーそして車いす

グラーツ(オーストリア)

グラーツ(オーストリア)ハウプトプラッツの歩行者天国

すぐ上の写真はオーストリア第二の都市グラーツの中心広場です。ドイツ語でハウプトプラッツといいますが、ハウプト(主)プラッツ(広場)つまり主たる広場ということになります。後ろの建物は市庁舎(市役所)で、通常ヨーロッパでは市庁舎は市の中心にあり、最重要な場所になっており、その周りには商店街やレストランなどが並び、市民の生活の中心になっています。
ここグラーツでも、そのようなヨーロッパの町の構造の典型的な形を、ハウプトプラッツ周辺に見ることが出来ます。市庁舎の前の広場がハウプトプラッツですが、ハウプトプラッツには許された自動車しか入れません。そしてこのように電車(LRT)が人々を運んできます。
写真では電車道が奥に見えます。この電車が通る小径は、ヘレンガッセ(紳士の小径)という通りで、両側には博物館、おしゃれな商店街、レストランなどで常に賑わっています。ヘレンガッセも見て解るとおり、歩行者天国です。道に沿って並んでいるテントが見えますが、この下では人々が食事やコーヒーを楽しんでいるのです。まさに密を避けたオープンな場所じゃないですか。
電車の向こうには数人の人が道路を横切っています。電車は右側通行ですから、手前の電車は向こう側に進んでいるわけで、道路を渡っている人達は、電車の前を平気で横切っているのです。電車はこのような空間ではゆっくりと走りますから、道を横切る人はちゃんと計算しながら渡り始め、電車の運転手もそれを意識していますから、信号がなくても全く問題はありません。このように通常町の中心街にあって歩行者天国であり、LRT・自転車・ベビーカー・車いすが共存する空間を、トランジットモールと呼ばれます。
日本では自動車が基本的にどこでも我が物顔で走ることが出来、それが便利とほとんどの人が思っていますが、一人の便利は他人の不便で、自動車の氾濫する道路は人に優しくなく、したがって中心部を自動車が走ることが出来る町では、中心部から人が途絶えるという、ちょっと考えれば当たり前の負の現象が起きているのです。日本でシャッター街が多いのは、自動車がなければ生活できない町として放置し続けた結果なのです。
地域の町を活性化するには、地域の町の中心街から自動車を排除し、そこに電車を通すのが、間違いなく効果的な方法であると、ヨーロッパ諸国のここ何十年かの実験で解っているのです。

カールスルーエ(ドイツ)

カールスルーエのトランジットモール-カイザーシュトラッセで、鳩と遊ぶ兄弟とお父さん

次はドイツのカールスルーエの町を紹介しましょう。この町は恐らく世界で最も良くLRTが整備されている町の一つです。何故かと言えば、カールスルーエモデルといって、LRTファンには有名ですが、既存の鉄道網を活用し、LRT網を広げているのです。日本で例えれば、JRローカル線で、一時間に一本しか列車が通らないような線路を借りて、地方自治体あるいは第三セクターが経営するLRTを、15分に一本ほどローカルな移動のため走らせます。つまりその線路上は、JRも走ればLRTも走っています。そしてLRTは所々に独自の駅を持ちます。したがって乗客がLRTに乗りたいと思ったら、JRの駅ではなくLRTの駅から乗ることになります。駅は共有せず、線路だけを共有しているわけです。
さてそのようなカールスルーエLRTですが、カールスルーエ中心街ではやはりトランジットモールになっています。すぐ上の図をご覧下さい。お父さんが弟のベビーカーを押しており、その隣では兄さんが鳩をからかっています。これも電車道の上ですね。ベビーカーに乗った弟(たぶん)も、お兄さんと一緒に遊んでいるのでしょう。やはり鳩の方に手を伸ばしています。こんな光景は当たり前に見ることが出来ます。この記事のアイキャッチ画面も、やはりカールスルーエのトランジットモールで、ベビーカーを女の人が押しています。こちらに向かっている電車が来る前に、急いで渡っている様が写真から解りますかね。ここでも赤ちゃんがしっかり起きて、一緒に楽しんでいる様子がうかがえるでしょう? 町の真ん中でもゆったりしているので、ベビーカーに乗った赤ちゃんでも、一緒に楽しめるのですね。

LRTは生活のための電車

一つ忘れてはいけないことがあります。LRTは生活のための電車であることです。
これまで日本の電車は基本的には通勤の為でした。そのため満員電車が当然とされました。また電車の会社は不動産部門を常に大きく持っていましたから、新しく路線を引けば、そこに通勤の為の住宅地が出来、不動産を通じて関連会社も収入を上げることが出来るという、通勤をベースにした発想で路線を整備してきました。それもあって電車は乗車運賃だけで採算があうものであるという発想が常にありました。だから赤字路線は廃線にする流れが止まらなかったのです。
京都も30年以上前、大失敗を犯しました。あれだけ線路網を誇っていた市電を全廃したのです。せめて線路を残しておけば、京都市は世界の最先端を行けたのに。
実はカールスルーエもグラーツも路面電車を廃止することはありませんでした。ドイツの多くの都市は、路面電車撤廃の方針を採りませんでした。さすがドイツだと思います。電車のエネルギー消費は、極度に小さいことを、多くの市民も、また地方政治家も知っていたのでしょう。
今回もメルケルさんがドイツ首相で、女性首相であることばかり、日本のマスコミは取り上げますが、メルケルさんが物理学の博士号を持つことは余り知られていません。しかし物理学者でもあることから、コロナの対応は科学的に正しく、コロナの対応で支持率が上がったリーダーの代表格として、世界的に認知されています。長期的な歴史を考えたとき、科学を元にした選択は、とても強いのだと、世界に示すドイツのあり方です。

>>電車のエネルギー消費の少なさはこちら

科学的に見て、持続可能な社会を支える公共交通機関は、電車なのです。そして通勤主体の発想は、コロナで崩れつつあります。むしろ都市の役割は、人々が幸せに暮らし、子供を育て、また自由で多様な働き方をする人が、それぞれ他を思いやりながら、素敵な生き方を続けて行く、そのような方向に変わっていくでしょう。それを支えるLRTを、地域活性化の第一歩として、是非全国で進めていこうではないですか?

えねるぎぃっ亭南駄老でした。

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